2003/9/16

・ブッシュ政権を揺さぶる深刻な雇用問題
8月の雇用統計では、6.1%と0.1%の改善は見られたが、雇用者数自体は更なる減少となり「雇用拡大なしの景気回復」の様相。
これはブッシュ(父)政権が再選に失敗した時と同じパターン。
もっと突っ込んだ言い方をすれば「雇用減少の景気回復」

・利下げまで言及したFRB
FRBのバーナンキ理事が、雇用悪化がこのまま続くとFRBは利上げどころか更なる利下げに踏み切るしかないと言い出した。

・小手先の雇用対策
ブッシュ政権は、雇用担当ポストを商務省内に新設した。影の薄い商務省に次官級のポストを設けても1年2ヶ月先の選挙までに雇用情勢を変えることはほとんど不可能。
FRBの利下げについても、既に50年ぶりの低金利の状態で、25または50ベーシスの利下げを実行しても、大きな変化は期待薄。

・雇用以外にも大きな懸念材料
企業の設備投資動向は、大手企業のCFOへのフォーチュン社のアンケートによると前月よりずっと慎重になっている。
フォーチュン社はこの結果を「dog days(ひどい事態だ)」とコメント。
現状の米国経済は、住宅部門が低金利に反応したことでかろうじて支えられている。
ここで息切れした場合は、底割れ状態になってしまう。

・ISMやFRMのベージュブックでは、米経済は改善していることを示唆している。上記アンケートの結果の様に逆の状況になっているのは。
大手企業ほど、バランスシートの健全が気になっているからではないか。
米企業のトップマネージメントは、サーベンス・オックスレー法にもとづき財務諸表の正確性を保証することが求められている。大企業ほど、同法にもとづいたSECやマスコミの標的になりやすい。
その一方で、未上場の中小企業は同法などほとんど関係ない。その意味で、中小企業は素直に低金利や減税、ドル安、原油価格安定の4要因に反応して元気にやっている。

・生産性上昇と増益の一例
大企業に勤める友人は昨今のリストラで5人チームの業務を自分1人とアシスタント(別の部署と兼任)の0.5人まで減らされてしまった状態で働いている。
グリーンスパンFRB議長が米国の生産性は上昇しており、企業収益は拡大しているから大丈夫だといっても、これが実態。(人件費の大幅削減)

・高まるドル安政策の可能性
雇用と景気拡大に効く唯一の政策である、ドル安政策に向かう可能性はかなり高まっている。

・庶民感覚と経済実態のズレ
一方、日本国内の総裁選挙に目を向けると、国民の関心事が単なる景気の回復から政府支出の無駄を切れというところにシフトしている。
政府だけが放漫な財政赤字で無駄なことをするのはけしからんという反発である。
これは庶民感情からは充分理解出来るが、経済学的にはますます事態を悪化させることになり、結果として財政赤字を今以上に拡大させるリスクを抱えている。
「こっちも使わないから、おまえも使うな」では経済が縮小してしまう。

・一般には理解し難い全体像
企業がバランスシートの修復に成功して借金返済を止めるまで、政府が財政支出を維持して景気の下支えをやらなくては、家計が貯金しているのに企業が借りないというバランスシート不況の基本構造が残っている限り、家計が貯金した分だけ毎年、景気は確実に縮小してしまう。

・残念な総裁選の経過
つまり、バランスシート不況下では企業努力は家計が貯金しなかった金額のシェア争いであり、パイ全体の拡大にはつながらない。
パイを拡大するには。(1)家計部門が貯蓄率を下げる。(2)企業か(3)政府が借りて使うしかない。
残念ながら、今回の自民党総裁選では3人も景気回復を訴えながら、このマクロの現状を国民にしっかり伝えられたとは到底思えない。
選挙がたった2週間しかないということは、1年近く続く米大統領選挙と比べて、政策論争が発展し、精緻化しない一因かもしれない。

・債券市場の攻防ライン
債券市場は1.5%の利回りが重要な攻防ラインとなってきたようだ。日銀もこの水準で行動をとるようになり、これ以上の長期金利上昇を防ごうとしているように見える。
日銀が国債を大量購入することで、0.4%台までバブらせた訳だが、本来の自然体である1.5%まで戻ったことはしょうがないとしても、それ以上のオーバーシュートされるのは実体経済にマイナスになりかねず、日銀としても一旦ここで止めておきたい。


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